怪奇おそろし話 4:44の恐怖

 「…お父さん、ごめん。起きて、お願い、起きて。誰かいる、誰か…」という声で起こされた。金曜の真夜中、正確には土曜の明け方だ。僕は夜明け前に熟睡するタイプなので、この時間に起こされると機嫌が悪い(いや、誰だって寝ているところを起こされると機嫌が悪いだろうが、僕はとりわけそうなのだ。低血圧なのだと思う。ただ、もうずいぶん前から医者から降圧剤を毎日朝晩飲むよう言われているが、起こされる時だけは誰が何と言おうと低血圧なのだ)。それでもこれまでに聞いたことのない必死な声だったので、「ううん」、とうなりながらも目を覚ました。目の前に真っ青な顔をした配偶者がいた。「…どうした、何?」とこちらはまだまだ寝ぼけた感じで声をかけたら、結婚して多分初めてではないかと思われるくらい真剣な顔で「ごめん、本当にごめん。でも誰かいるのよ、何かいるのよ」と全く要領を得ない。この人は良く寝ぼけて突然大声を上げることがあって、びっくりした僕が何事かと起こすと「河童が…」と言って絶句することが以前から何度かあった。「泥棒が…」というときもあった。要するに悪い夢を見てうなされることが結構ある人なのだ。

 今回も、そういうパターンだろうと思っていたが、どうにも様子が違う。顔色は真っ青でブルブル震えている。落ち着かせて事情を聞くと、一番最初は熟睡しているところを誰かが足を触ったらしい。うっすら目は覚めたが、気のせいだと思ってまた寝ようとしたら、今度はやや強く足を触る(膝のところを持たれて、左右に振られる感じだったらしい)ので、そういえば下の子が部活の練習で朝早く出かけると言ってたから、起きて弁当を作ってくれというデモンストレーションだと思って、起きてあたりを見渡したが誰もいない。おかしいな、と思ってまた寝ようとすると、今度ははっきり足を持たれて左右に振られる感触がした。「誰?」とつぶやいて、また起きたがあたりは真っ暗(僕の配偶者は電気を完全に消して出ないと寝られないタイプなのだ)で、そのまま様子をうかがっていたら、いきなり玄関でドスンという音がした。心臓が飛び上がるくらい驚いたが、良く耳を澄ましていると階段を上がっていく足音がした。朝刊の配達だった。いったい今何時だろうと思って、時計を見たら表示されている時間が4時44分だった。「し、し、し…」と読んだ瞬間、背中に悪寒が走り全身に鳥肌が立った。

 あまりの怖さに僕の部屋の扉を開けて様子を見たが、もちろん僕はいびきをかいて熟睡している。ここで僕を起こしたら、寝起きの悪い僕が激怒すること間違いないので、じっと我慢していた。すると僕の部屋の奥にあるパソコンのところから、うっすら明かりが洩れているのが見えた。最初はデスクトップのスイッチを切り忘れたのかと思って、見に行ったがスイッチは切ってある。それでもパソコンの背面あたりからなにやらぼんやり明かりが見えて、それが不規則に点いたり消えたりを繰り返している。それを見た瞬間、もう怖さに耐えられず僕を起こしたという。

 話を聞いていて、当然僕は、んなアホなという反応しかしない。それを見ていた配偶者は、「いや、間違いない、絶対誰かがいる」などと言い張る。頭に来た僕は「こんなクソ狭い部屋にだれがいるんだ。もし誰かいるなら家賃の一部を負担してもらう」とジョークを飛ばすが、全然聞く耳を持たない。「もしかしたら墓参りに行かなかったから…」等とも言うので、「だからオレが一緒に行こうといったのに、もう疲れるからなんていって行かなかったからバチがあたったんと違うか。だいたいオレんとこの墓参りじゃなくて、お宅のご先祖の墓参りだったのに横着するから。っていうか、あなたのご先祖様だったら何も怖いことはないだろうが」とこちらは何とかなだめよう、なだめてさっさと二度寝させてくれという心境でひたすら話して落ち着かせようとした。

 それでもパソコンが光ったなどというので、起きて電気をつけてみたが別段おかしなところはない。それにしても時計が4時44分だからなんだというのだ。4時44分でシーシーシー、と来ればこれはタイガースのヒット曲ではないか。♪お、ど、りに行こうよ、青いうーみのもとへー、Go bound!!ではないか、あ、これはシーサイドバウンドだった、シーシーシーは♪愛のピエロは~のほうだ、と説明するがニコリともしない。さらに自分は何度もこういう怖い目にあったことがあり、今まで言わなかったがそれは必ず午前4時44分に起きている。それは、その都度時計を見て確認した、などというので、「アホ、人間そんな時間に起きることがあったりするけど、それで時計を見ることもあるだろうけど、その時は4時56分だったり、3時32分だったり、5時05分だったりしているはずだ。たまたま4時44分と数字が揃っていたのと『4』が『死』を連想させるから、その場合だけ記憶に残って、毎回4時44分だと思い込んでいるのだ。脳髄のいたずらだ。胎児よ胎児よ何故踊る、母親の気持ちが分かってうれしいのか~」と最後は夢野久作のパクリだが、なんだかんだいって納得させようとした。

 しかし、配偶者、聞く耳持たず、挙句は一度部屋の電気を消して確かめてくれというので、少々腹が立ったが、こういうことは実証的に解決しないといかんと思い電気を消してパソコンのほうを見た。何も起こらない。「ほらみろ」と言ったその瞬間、パソコンの後ろでぼんやりした明かりが見えた。「あ。点いた」と思わず僕も声を上げてしまったが、ええい、こんなもの、何かの明かりが洩れただけだと思い、コンセントを抜いてしまった。それからしばらく見ていたが何も光らないので、配偶者に「見ろ、コンセントを抜いて光らないというのは、あれは電気だ。電気は電源につながっていれば何かの拍子で光ることもある。心配するな」と言ったものの、今度は僕自身の目が冴えてしまいしょうがないから新聞を取ってきて読み始めた。配偶者は何か言いたげだったが、僕の剣幕に押されてしまったか、とりあえずは自分の部屋に戻り寝ていた。それでも、まだ恐怖心が残っていたようなので、僕の部屋の扉は開けたままにして、さらに電気は点けたままにしておいた。

 時計を見ると5時半に近く、太陽はまだ見えてないが遠くに薄明かりが見えている。もう少ししたら、今日も太陽がギンギンギラギラにあたりを照らすんだろうなとぼんやりしていたら、遠くから何やらうめき声のようなものが聞こえてきた。空耳だろうと思って、聞こえないふりをしていたのだが、間違いなく、複数の男女の声が聞こえてくる。何やら強弱のある感じで、途切れず延々と聞こえる。多少ビビったものの、外が少し明るくなっていたのでベランダに出た。我が家の近くの新興宗教の教会の朝の勤行であった。ご苦労なこっちゃと思ってしばらく眺めていると、その教会の壁についている照明が突然点灯した。「わわわ」と思わず声を出してしまったが、どうやらその照明はセンサー付きで、何か感知したら点灯する仕掛けのようだった。ふと気がついた。先ほどのパソコンの背面の点灯する明かりは、あの照明の光の反射ではないのか。そうだ、そうに違いない。それでいいのだ。と、無理やり話を納得させたのであった。ああ、しょうもな。



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コメント

ヨンヨンマルマルワンワンワン

じゃない、
4:44といえば、私が子供の頃、友だちから四時(ようじ)ババアって怪談を聞きました。4時44分にトイレに出現する妖怪です。
小学校の頃、転校したての時だったので、心細さもあいまって、すごく怖かった覚えがあります。
そんなに怖かったのに、内容はほとんど覚えておらず。
ウィキに、こんなのがありました。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A8%E3%82%B8%E3%83%90%E3%83%90
こっちは「ヨジババ」と短縮されてますね。
1990年代に流行ったとありますが、すでに1970年代には噂はあったわけですな。
バリエーションとして3時ババア5時ジジイとかあるようです。

3時ババアと5時ジジイというのは

単なる夜間頗尿症の高齢者ではないか、という気もしますが(笑)。あ、午後の3時や5時かぁ。ウィキを見ていたら、「赤いマントをあげましょか」という都市伝説を思い出しました。大学時代に同級だったS戸君に聞いたのですが、彼が子供の頃流行った話とか言ってたような気がします。

学校のトイレに入っていると、誰かがドアを叩き「赤いマントをあげましょか(かけましょか、だったかもしれません)」というので、「ハイ」と返事をしたら、包丁だったかナイフだったかで刺されて、その流れ出した血が、まるでマントを着ているようだったというやつです。

しかし、良く考えてみるとその刺された子供は殺されているわけだから、トイレのドアをノックされて話しかけられたというのは、誰が見たのかということにならないか。もしかしたら、その子は即死ではなくて、息があって我が身に降りかかった一部始終を説明して亡くなったとしたら、ずいぶんしっかりしたというか、精神力のある子だな、みたいな感想話したら、「お前みたいなやつには、もうこういう話はせん」と嫌がられてしまいました。

何が悪かったのか、いまだに良く分かりません…。

ああ、

その発光物体でしたか。てっきりエドガーだと。。
よくありますよね、夜中通るとあかるくなる。なんか自分が不審人物になった気分しますわ。まぁそうなんすけど。とほほ。

エドガーといえば、あの『芦屋家の崩壊』を

書いた、エドガー・アラン・ポー先生でしょうか、それとも永井豪先生でしょうか、などと好きものでないと分からないようなコメ返しですが(笑)。

>よくありますよね、夜中通るとあかるくなる。

あれ、ホント気分悪いですね。突然光るから。もっともよく見ていると野良犬なんかも一瞬ビビって飛び上がりますが、オレも犬並みかと思うと情けないです、ハイ。お互い、もういい年こいたオジサンなので深夜徘徊は控えましょう。あと少ししたら嫌でも徘徊するようになる可能性ありますから(泣)。
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