河原町の洋酒パブの話 その前に

 前回、登場したN谷君であるが、結構いいところもあった。実は、この前のエントリーは半分眠りこけながら書いていたので、どんな内容を書いていたかはっきり覚えていなかった。それで、先ほど読み返したら、あら、まあ、これはひどい。いくらワタクシが真実のレポーター、日本のラルフ・ネーダー(いまどき、誰も知らねーというか、あの人もう亡くなったんじゃなかったっけ。で、実は結構権力サイドに買収されていたとか噂になったような気がするが、調べるのが面倒なのでパス)といわれようが、ちょっと、ね、というところがあったので、バランス感覚として彼のいいところを最初に書いておく。

 ええと、彼の酒癖の悪さは前回、簡単に紹介しておいたが、では、相当な量飲むタイプかというとそうではなく、だいたいビールをコップで1、2杯あおると、顔と目が赤くなり、やや呂律が怪しくなる。そのまま大瓶を1本空けたころには完全に目が座って、やたらニタニタしてしょうもない話を延々と繰り返す。日本酒に切り替えると、小さなお猪口に目一杯、手酌で酒を注ぎ、そこに「おっとっとっと」などと言いながら口を持っていき、まずチュッチュッと吸う。そして残ったお酒を片手で一気に呷る。それを2~3回繰り返すと、「お前はな~」といきなり人に絡み始める。挙句は独りだけ、酔っぱらってしまいぐでんぐでんになって歩いて帰っていく。…えーと、彼のいいところを書こうと思ったのだが、切り口を間違えたようだ。

 そういえば、あれは79年の夏、恒例の鳥取の合宿が予定されていた時の話だ。当時、大学5回生になっていた僕とF田君とS戸君、そしてN谷君の4人は、サークルではもう完全に雲の上の人というか、単なる煙たい留年カルテットというか、『あのオッサン達、鬱陶しいけど、一応サークルの先輩やし、立てておかんと後々うるさいし』、などと後輩諸君が陰でひそひそ話しているのは重々分かってはいるものの、もはや別館以外に居場所のない、しいて言えばS戸君はサーカスというバイト先があったが、あとの3人はほとんど別館のボックス以外は居場所のない、ロンリー留年トリオだったので、『まあ、お前らは現役サークル員やさかい、みんな一緒に電車で行けや、そういう団体行動で協調性ちゅうもんが磨かれるのや。ワシらはOBの特権として車で先乗りするさかいに』、とまあ勝手な理屈で合宿予定日の前日の夜から車で鳥取入りして、昼間は砂丘なんぞでナンパの一つや二つはしてこまして、まあ、その勢いでそれぞれゲットしたおねいさんとイイコトして、夜は民宿に結集してビールで乾杯して日本海の魚に舌鼓打とうやないか、そうや、そうや、そうしよ、と、ワタクシたち留年4人組は、合宿の前夜、ワタクシのアパートに夜20時集合して、F田君の運転するホンダのアコードに乗って、夜の中国縦貫道を走って、一路鳥取に向かうはずであった。

 こういうときに、一番段取りがいいというか、こまめに動くのは意外にも“せんみつ”のF田君で、彼はその前日から僕のアパートに泊まり込みで、車はアパートの前の一方通行の道路に路上駐車したまま、いつでもスタンバイOKという体制。また、S戸君も荷物をまとめたり、行きの車中におなかが減った時のスナック菓子であるとか、ロードマップであるとか、あ、こういうのあると便利だよね的なものをまとめて、そこはそれ長年バイトで時間厳守の生活をしていたので20時の30分前には僕のアパートに来ていて、この中では一番準備が悪くて、まあ、それでもいざ準備となればものの3分でバッグに着替えから文庫本からカセットテープまで、あっという間にそろえるワタクシの3人は烏丸中学前のワタクシのアパート、S友荘の1階の共同玄関上がってすぐのワタクシの部屋に結集していた。

 さて、それから待てど暮らせどN谷君が来ない。もともと時間にはルーズな男だったから、当然30分や1時間くらい遅れることもあるだろうと思い、本当の出発時間は21時、ぎりぎり待てて21時半と、N谷君以外の3人は決めていた。まあ、そのうち来るだろうくらいの感覚で、これからの合宿の楽しみ(まあ、麻雀で後輩たちから荒稼ぎするとか、いつもの海に今年は海の家が出来て、地元のおねいさんや関西方面から海水浴に来たおねいさん達と親しくなれるチャンスが、必ず今年こそ来るはずだとか、夢のまた夢の話)を話し合っていた時に、僕の下宿の2階に住んでいたT畠という、3学年下のサークルの後輩がひょっこり赤い顔して僕の部屋に来た。開口一番、「あれ、やっぱり今日車で行くんですか?」などと聞くので、「おう、今夜のうちに走って鳥取に行く予定してたんやけど…」と僕が答えたら、「あ、でもN谷さん、さっき金八で飲んでたで、結構もういい感じで出来上がってたけど…」などという。僕たち3人は同時に「はぁ?お前なんで止めんかった、あいつ飲んだら酒癖悪いの知ってるやろ、どうしてそのまま飲ませたんや!!」と叫んだ。T畠君は、とんだとばっちりだとばかりに「そんなん言われても、あんな酒癖悪い人、後輩の僕なんかではよう止めませんよ、まあ、でも結構飲んでたから、もうじきここに来るんとちゃいますか?」というや否や、無用のトラブルにかかわるまいと自分の部屋に戻った。

 T畠君の階段を上る足音を聞きながら、僕たち3人は善後策を話し合った。「しかし、あいつめちゃくちゃやな、今日、鳥取に行くて、決めてたのに一人で飲みに行くか、ふつう」とS戸君。「あいつがむちゃくちゃなのは、もう以前からわかっとったけど、ここまで無茶するとはな。ま、でも物は考えようで、あいつ飲んだらすぐ寝るさかいに、車のバックシートにほっておけば静かでええわ」とこれは僕。「あほ、お前、そんなことしたら、あいつ絶対寝ゲロしてシート汚すに決まっとるやんけ。ワシ、絶対いやや、酔っぱらいは車に乗せたらアカンてお父ちゃんにも言われてる」とこれは今回の鳥取行きに車を提供し、往復単独で運転することになるF田君。「ま、どっちにしても、20時集合と言うてるから、そんなに遅くはならんやろ、酒もほどほどにして、まあ、車中はうるさいかもしれんが、とにかく、今夜のうちに鳥取に向かうようにしようや」と僕。しかし、それから待てど暮らせどN谷君はやってこない。当時はまだ携帯もなかったし、またその金八というのは、あちこちの大学の活動家連中のたむろする居酒屋だったので、そんなところに電話して呼び出すのもどうかと思い、僕たち3人はそれほど聴きたくもないレコードをかけて、彼のことは極力話題にせず、じっと待っていた。

 22時過ぎて、S戸君がついに恐れていたことを言い始めた。「あかん、今夜はもう無理や。今夜はすっぱり諦めて、明日の朝一番で出るしかないんちがうか」。「まあ、しゃあないな。でも、ワシは一言N谷に言いたい。お前は人を待たせて何ぼのもんじゃ、と」と、F田君。僕は、もうどうでもいいや、こうなったらオレも飲んでしまうかと頭の中で考えていたその時だった。ばたばたばた、と足音がしてバターンと部屋のドアが開いた。そこには真っ赤な顔をしたグリコ・森永犯のモンタージュの男が仁王立ちしていた。あ、そのころはまだグリコ事件は発生してなかったので、よく見たらやはりN谷君の顔だった。その真っ赤な顔が大きくゆがみ、崩れるように部屋に倒れこんできて、そのまま大声で叫んだ。「あかーん、酔うてもた~」。N谷君が、飲みすぎて足腰立たない状態で僕の部屋になだれ込んできたのだ。僕たちは怒る気力もなくしていたが、一応義務的に聞いた。「お前、なんで酒飲んだ。今夜、鳥取に行く約束したやんけ」「あ、あ、うん、知っとる。知っとる。今夜、とっとりいくんやろ、しっとるでぇ、わは、わは、わはは」「いや、知っとったら酒飲みに行かんやろ、ふつう。なんで飲みに行ったんや」「あ、なんでて、その、ほら、あれや、前祝いうやろ、あれやがな」「前祝いはええけど、20時の約束やったさかい、それまでに戻ってくるとか、飲みに行く前に誰かに話しておくとか方法あったん違うか?」「あ、うん、うん、う…」。最後は言葉にならず、もうすでにすやすやと寝息を立てているのであった。

 N谷君の熟睡している姿を見て、頭に来た僕たち3人は、そのままS戸君のマンション(彼は勤労学生だったので、当時では珍しい鉄筋のエレベータ付、ユニットバス・キッチン付、オールフローリングのワンルームマンションに住んでいた。しかしその家賃をねん出するためにほとんど毎日夜はサーカスのバイトに通い、昼間は小学生の塾のアルバイトに通い、大学に行く時間はほとんどなかった)に行き、こちらもやけ酒をあおって、そのままS戸君の部屋で雑魚寝した。翌朝、やはり鳥取に行くという気持ちの高ぶりからか、8時前には3人とも起きて、顔を洗い、前日あれだけ飲んでぐっすり寝たからN谷ももう起きて準備しているだろうと車で僕のアパートに戻った。僕の部屋の玄関のドアが開いていた。中には誰もいなかった。「あいつ、どうしたんや」「あの状態で家に帰ったんやろか」「まさか、どっかその辺で車にはねられてるのと違うか」。心配になった僕は、彼の下宿に電話して、彼がいるかどうか尋ねた。「…ハイ、N谷ですけど。どちらさん」。地獄の底から響くような不機嫌な声。わははは、前日飲みすぎたN谷君は二日酔いで半分死にかかっていたのだ。それから、小一時間過ぎて、シルバーメタリックのホンダアコードに3人の学生が楽しそうな顔をして国道9号線を南下していく姿が見られた。ん、3人。いやいや、我々の友情は固いのだ。もう一人のN谷君はシートに身をうずめ、断続的に襲ってくる二日酔いの頭痛と吐き気と闘いながら鳥取に向かっていたのだった。車中に流れる音楽は、これは当然、ハードなパンクやギンギンのニューウェーブが大音量で流れている。楽しい合宿に向かう青春の一こまを今回、レポートいたしました。あ、河原町の恋の物語はまた今度ね。



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