ワタクシと北関東(JEP)の出会い プロローグその2

 「それでは本日の面接の結果は後日お電話しますが、××君はもし採用になったら宮崎勤務にこだわりますか?」と聞かれた。3年間は親元から堅気の会社に通うつもりでいたのだが、そう聞かれるとスケベ心が出て「宮崎以外の勤務地はどのあたりですか」と尋ねた。「はい、本社は茨城県の水戸市、営業所は下館市、取手市、埼玉県の大宮市、まあ、ビルは与野市にあるんですがもう大宮と言っても差支えない場所ですね、いわゆる北関東一帯に営業所はあります。そして東北・北海道に今年中には新しく支店と営業所を出します」と景気のいい返事が返ってきた。それを聞いてちょっと渋い顔をしていたら、「東京の近くですよ」などとこちらを南九州の田舎者と舐めたような発言があった。「いや。僕は大学も京都だったし、できれば関西方面で働きたいのですが」と答えたら、「うーん、関西のほうは商売のやり方が違うんですよ。なんでもかんでも『これなんぼまかる?』みたいな値引き合戦で定価というものがない、というか相手の顔色見て値段を決めるような商売なので、今のところは出店計画はないんですが」とここまで話して一呼吸おいて「ただ××君のその若さと活力で関西方面に支店を出すことも可能ですよ。九州の支店長は今鹿児島にいますが××君と同じ年です。彼も宮崎の出身だけど自分で新しい営業所を作ると社長に提案して許可をもらい今では全面的に任されています。そうだな、わが社は関西方面にパイプがないから××君が応募してきたのも何かの縁かもしれませんね。うん、期待していますよ」。

 この言葉が大噓であることは入社してだんだん分かり始めた。いや100%ウソではないのだがかなりなオーバー・トーク。大げさ、誇張、JAROにいうたろ、てなもんである。おっと先を急ぎ過ぎた。そういう大風呂敷の面接が終わって家に帰ってきたときはぐったり疲れて、その日はすぐ寝てしまった。もっともそれまでいろんな会社の面接を受けたが、丸1時間以上じっくり腰を据えて話を聞いたり、しゃべったりしたのは初めての経験で面接官の印象も良かったし言葉も茨城弁の「だっぺ」も出ず、いわばNHK的標準語でスマートだった。そうだ、今思い出したが面接のソファに座った途端、「××君は普段からスーツにネクタイなんですか」と聞かれ、「いえ、これは面接用で普段はジーンズにトレーナーです(さすがに「アーミーです」、なんて言ったらまずいだろうくらいの知恵はあった)」と返事したら。面接官は満面に笑みをたたえて「じゃ、今日はそのジーンズとトレーナーを着ているつもりで、普段の××君の本音を聞かせてください」なんて言われたのだ。今思えば単なる子供だましの緊張ほぐしだが、社会人の経験のなかった当時の僕には必殺トークであった。

 面接結果は3日以内に電話するとのことだったが、面接の翌日には電話が入り採用となった。研修についてはもう一人採用予定があり、その人の都合で日程を決めてまた電話するが2月の下旬から研修に入る予定だがそれまでの間に本を1冊送るから、その感想をレポートにして本社の人事部まで郵送するよう言われた。2,3日後にその本が届いた。『新入社員の会社訪問』とかいうタイトルのビジネス本だった。それまで、この手のビジネス本は読んだことがなかったので、ふんふん、どんなことがかいてあるんだと興味深くページを繰ったらいきなり目が点になった。いわく「会社の目的とは利潤の追求ではない」などと書いてある。え、いや、だって会社の目的は利益の追求でしょうが、と思って読んでいくと「会社の目的は存続することである」などと書いてある。おお、まるでかもめのジョナサンのテーマ、「BE 存在し生きること」みたいではないか、などと感心はしなかった。はぁ、存続することが目的ねぇ、でもね、うーん、と思いつつ読み進むと「存続し発展し続けていく中で生まれるものが利益である。しかし利益を目的とすると存続は難しいのである」みたいなことが書いてあった。倒産などを経験した今の立場で考えると非常に哲学的というか意味深長なフレーズであるが、当時怖いものなしのイケイケ時代だったので、なにとぼけたこと書いてるんだ、この野郎。そんなんで騙されないぞ、などと考えていたが、そこはそれ、最初は頭を低くしておかないとあいつはどうもヤバい奴かもしれないなどという印象をもたれるとマズイと、うーん、ちょっと世渡りなんか考えたんだろうな。とりあえずこの辺に異議ありみたいなことは書かないでおこうと自制心が働いた。

 しかし、その本を読み進んでいく中でどうにも我慢が出来なくなった箇所があった。本宮ひろしのサラ金マンガで、あ、いや『サラリーマン金太郎』というマンガで「会社と恋をする」なんて寝ぼけたフレーズ、俗流愛社主義みたいなのがあったが、その原点みたいなフレーズで「モーレツ社員も良くないがマイホーム社員はもっとダメだ」みたいなことが書いてあったのだ。要するに、帰宅時間なんか気にせず会社に身も心もゆだねないとダメだ、男子たるものマイホームで良いパパを演じるようでは出世はおぼつかないみたいなことが延々とかいてあったのだ。さあ、僕は切れました。なにぬかしとるんじゃこのオヤジは。戦後日本の奇跡的な復興は、所得倍増計画は高度成長時代はそういうマイホームパパが頑張ったおかげじゃないか。特定の経営者だけが頑張ったわけじゃないだろう。帰宅時間を犠牲にしても家族のために一生懸命働き、たまの休日にマイホームパパして何が悪い。それとも何か、お前はただ馬車馬のように働き、金を稼ぎ、その金を家庭に入れずに湯水のごとく使い果たして、もって日本経済に貢献せよとそういうわけか、え、ゴラァ。などというものの言い方は当時はまだなかったと思うが、気分的にはそういう感じだったっけ。

 で、一気にレポートを書いたが、どうも表現がバイヤーというかあちこちにボーリョク学生のにほいが残っているようで。自分なりに推敲したがどうも自信がないので同じ時期に就職が決まった友人のところに持って行って添削してもらった。そうやって出来上がったレポートを速達で本社に送ったら数日後面接官から電話が入った。「いやー、しっかり本を読んで書いてますね。今回の新人の中ではダントツ一番だと社長も言ってましたよ。まあ、ちょっと学生の感覚が残ってるけどそれはしょうがないね。そうそう研修ですが2月の20日から宮崎の事務所で行います。当日は朝8時半までに筆記用具を持参しておいでください」。お、あと何日かしかないな、筆記用具は当然持ってるし宮崎の事務所はこの前面接に行ったし心配いらないか。じゃ、飼い犬になるまでの数日間、思い切り羽を伸ばすか、じゃいっちょ景気づけにINUでも聴くべぇか、などとのんびり構えていてふと気がついた。オレはあの会社で何の仕事をするのだ。

 そんな馬鹿なと思われるかもしれないが、そういう会社だったんですわ、あの会社は。つまり面接で総花的な話というか未来や将来の話をし続けて現場的な実際何をやる的なことはオブラートに包んで分からないようにしている。いや意図的だったのではないのかもしれないが、そういう曖昧模糊としたいったい何をやるのかな的なほんわかした感じで会社に集めておいて一気に研修、しかも自宅に帰さず全員寮に入れて24時間目を離さない。たまの日曜日の自由時間も一緒に遊びましょという形で外部の人間、それが家族であっても極端に接触を嫌うというところがあったんです。な、zappy君。おっと話を82年に戻すと、まあ自分でも迂闊だなと思ったけど面接で聞いた話を何度思い出してもこれが仕事だというものがない。いやオレは企画で採用されたけど最初の何年かは、いやいや最低1年間といってたっけ、1年間は営業って言われたよな。営業ってのはノルマがあると思ったけど、ノルマはないって言ってたよな。ノルマはないけど目標がないとぐずぐずになるから、社員は自主的に目標を設定するっていってたっけ(それを一般的に「ノルマ」ということは入社してしばらくして知りました。って、遅いわっ!!)。まあ、新入社員だから目標はいいだろうけど(いや、でんでんそんなことなかった。現場初日から例の同い年の九州のマネージャーから朝から大きな声で「××くぅん!!今日の目標は何アポ?」なんて聞かれたっけ)、え、いったい何をエイギョウすればいいんだ。

 確かこのころ読んだ松岡正剛の「遊」だったと思うけど「営業は『業』という言葉がつくことから分かるようにカルマである」みたいなことが書いてあって、そうかオレはこれから営業マンつまりインスタント・カーマになるんだ、などと訳の分からないことを考えたりして、結局一体全体僕は会社に入って何をするのかがさっぱりわからなかった。といいますか、なんだかだんだんこの会社大丈夫だろうかというかすかな疑惑が浮かんだのだが、いやいやあれだけ面接で話し込んだではないか。またレポートに対しては若干不満な感想ではあるが、社長自らのお褒めの言葉を頂いたわけだから、ドンマイ、ドンマイ、だいじょーぶマイフレンド~などとこの段階ではまだ気楽に加藤和彦なんか歌っていた。

 その疑念がむくむくと頭をもたげてきたのは研修の前日、夜8時くらいの電話だった。明日から研修だから今日は早めにお風呂に入り、この間の本でも読んで予習でもしておくかなどと殊勝な気持ちでいた僕に会社から電話が入った。受話器からは、ちょっとあせったような面接官の声が聞こえた。「ああ。××君、夜分申し訳ない。実は明日の研修なんだけど…」「あ、ども、こんばんは。この時間まで会社で残業なんですか(定時は18時と面接のときにしっかり聞いていたのでゼッタイ残業だと思っていた世間知らずのボクでした)」「残業?いや、普通の、いや、その、あの明日の研修なんだけど、もう一人一緒に受ける予定の人がどうしても宮崎に来られないんですよ。それで大変申し訳ないけど××君が鹿児島に来てもらえると助かるんだけど。ほら、この前話した××君と同じ年の課長がいるし、事務所も新築できれいだし」。「(なんか泡食ってるようだけど、ここはひとつ貸しを作っておくのも悪くないな)はあ、それは構いませんが僕は免許がないのでバスか電車で行くしか方法がありませんけど」「あ、それは大丈夫。電車で、と、特急でいいです。お金は悪いけど立て替えておいてくれたら、鹿児島の会社に着いたらすぐ精算しますから。朝8時の特急に乗れば西鹿児島駅に10時に着きます。駅の西口に降りたらJEPというマークの付いた車が1台停まってるのでそれに乗ってきてください、あ、運転は会社のものがしますから安心して」。

 で、どうしたかって。そりゃ当然切符買って電車に乗って行きましたよ。「ヘ」の降るかごんまに。太陽の光をきらきら反射させる錦江湾の海を眺めているうちに電車は無事西鹿児島駅に着きました。1週間分の着替えを入れたボストンバッグをよいしょっと抱えて改札を出て間違いなく西口から出ました。駅の左右にはタクシーと普通の車が何台か停まっていました。車の色は黄色でボディにJEPと書いてある車が、くるまが、あれ、どこにも見当たらないんですけど。あ、そうか、月曜の10時だから忙しくてまだ来てないんだ。よしよし、慌てる古事記は日本書紀、ちゃうわ、慌てる乞食は貰いが少ないや、ボケェ、などとひとりでボケ突込みしながら、ハイライトを咥えて待ちました。3分、5分、10分、あれ、おかしいな。もうちょっと15分、20分、いやこれ絶対おかしいで、なんかあったんちゃうか。そうそう、この間聞いた番号に電話しよう、そうしよう。と、まだ携帯の無い時代だったので電話ボックスに入り鹿児島の会社の番号を回した。「ハイにほんきょういくきかくでぇす」という女性の声がした。僕は10時に着いてずっと待っているがどなたもお見えにならない。どうなっているのでしょうかと丁寧に尋ねた。電話の女性は「あ、え、あの、えと、ちょっとお待ちください」と言って電話を保留にした。

 もう一度電話に出て来た女性は急用のため迎えに行くはずの社員が外出してしまった。今事務所には自分以外誰もいないので大変申し訳ないが歩いて5分もかからないので直接来てもらえないかと言って、地理が不案内なんですという僕に対して大変わかりにくい場所の説明をした。何度聞いても要領を得ないので、住所をメモり分からなくなったらその辺の人に聞けば何とかなると思って歩き出した。少し歩いたら前方からスポーツカータイプの車が徐行して近づいてきた。車の窓があき、知らない顔の男性が声をかけてきた。「日本教育企画に入社した方ですか」。僕はてっきり会社の人が用事がすんで迎えに来てくれたと思い、にっこり笑い「宮崎から来た××です。これから宜しくお願いします」と頭を下げた。ドアが開いて乗るように言った男性の口から出たのは驚くべき内容だった。「僕が今日、ここで迎えに来たことは誰にも言わないでください。約束できますよね」。

 うーん、こうやって振り返ってみると、よくこんな怪しい会社の研修に出かけたものである。しかもこれはほんの序章なのだ。これから青年drac-obは摩訶不思議な運命の糸車にからめ捕られていくのであった。♪仁義礼知忠信孝悌、いざとなったらタマをだせ~にゃぁ~ってサザエさんのタマかっ!!などと人形劇の里見八犬伝のテーマが流れる中話はまだまだこれから続くのであった。



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コメント

不覚にも

ワクテカしてしまいましたw

怪しげなスポーツカーの男は一体何者?と思わせる終わり方など、良いところでCMに入るTV番組とか、そのTVCMにありがちな「続きはWEBで」とかと同じで、イラつきながらも期待させる何かがありますw


ほらっ、早く続きを書いて下さいっ!
のんびり週末を満喫してる場合じゃない。

こっちだって、仕事の途中で見ちゃって困ってんだから(笑)

へ~~~

はやく続きが読みたいです!
はやく書いくださいね!

名前は堅い感じがしていいですけどね。

やー、やばいですね!続きが読みたいですね!うーん、やばい。ドキドキしますね。

いやー、悪い、わるい(笑)

決して「のんびり週末を満喫」していたわけではないのだが、いや逆に僕の場合は週末のほうが忙しくてエントリーを書く暇がないのだ。特にこの週末は、また寒くなるから灯油を買いにカダフィ君ちに行こうとしたら、なにやら騒動が持ち上がっていて大変だったし、恒例のフルモト調査も時間が無くて、あ、エリック・アンダーソンの『ロスト・アルバム』が全く予想もしなかった某ゲロじゃなかったG■Oに置いてあったりしてクリビツテンギョウ。

いやー、どんな小さなフルモトも侮ってはいけないという教訓を学びました。あ、続きはちゃんとアップするので、もうちょい待ってや。

それが「手」なんですよ、固そうな名前ってのが

大体、近■来通信とか豊■商事とかオレ■ジ共済、円天(伏せるところがないぜ、笑)とか、怪しい会社は固い名前を名乗るのよね。ヤーの字の付く自由業のお方が、一見気さくなとっつきやすい人に見せかけるのと同じ、一種の「擬態」ですね。

>はやく続きが読みたいです!

我ながらしょうもないエントリーだと思っていたのに意外な評判頂いて戸惑っております。♪ベイビ~、途方にくれてるのさ~、オイラ途方にくれてるのさ~

どーも、Goteauxssonさんまで

応援コメント頂いてありがたいです。まあ、アリとキリギリスの寓話の様に学生時代だらけきった生活を送っていた人間が、いかにしてこの厳しい競争社会にもまれて行って、ついには「どてらいやつ」と呼ばれるナニワの商人になった、などという話ではなく、ドツボ話なので適当に笑ってやってください。

ん~ほんと怪しい。でもだからこそこんなに鮮明な記録ができるわけで逆にいい体験したんですかね。もっと怪しい人たちとからみたかったな。
って、こりゃ盛り上がってきましたね。。

これから一気に話は佳境に

入る予定でしたが、例の大惨事が発生してちょっと書くのをためらってるというか、気持ちが沈んでしまいまして。落ち着いたら続きを書きますので、それまで少々お待ちください。

そういえば、昔は良くテレビが止まって(画面が、です)、「しばらくお待ちください」とか「しばらくそのままでお待ちください」なんて静止画がでていました。またCMのスポンサーがつかなかったのか、放送局のテロップだけ映って、バックにインストの曲が流れるシーンも良くありました。地元のテレビ局はその曲が「アンドアイラブハー」のギターインストゥルメントだったので、後年ビートルズの同曲を聞いたとき、「あ、パクリや」と思ったけど、どう考えても地元テレビ局が勝手に流していたとしか思えず、その著作権料はどうなっていたのか、今ならジャスラックが黙っていないはず。
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