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圧倒的な3時間 カルメン・マキ、板橋、太田ライブ

ついに貰ったマキさんのサイン

 12月1日は月初で仕事がたまっており、Y尾君から翌日のカルメン・マキのライブの電話を貰ったときもまだ事務所で仕事中だった。仕事が終わり次第電話するといって、かけなおしたのはもう21時近くだった。ぎょうざの丸岡宮崎店で行われるマキさんのライブは19時開場、19時半開演で全席自由なので出来るだけ早く行って、前の席を取りたいと思うのは、これは人情であって気持ち的にはもう18時くらいから会場前で席取りをしたいのだが、悲しいかな零細企業の中間管理職、ライブのある日の夕方にお客とのアポイントが入っており、それが何時終わるか分からない。他力本願は主義ではないのだが、ここはY尾君に早めに行って場所を確保しておいてくれと頼んだ。

 当日、お客のアポイントは変更になったが、実はその翌日も義父の7回忌のため休みを取っていたため、引継ぎ業務が重なりやってもやっても仕事がさばけない。時計は夕方5時半を回っている。しかし、ここからが僕の本領発揮で残っている仕事の中でプライオリティ(気取ってんじゃねえよ、優先事項といえばいいんだ!!って、オッサン何怒ってるんだよ)を見極め、PCの画面に集中すること30分。見事全ての課題をクリアして駆け足で会社を後にした。僕だってその気になれば仕事は早いのである。『成せばなる、為さねばならぬ何事も、成らぬは人の為さぬなりけり』という教訓は本当だ。もっともこれを毎日持続出来ていれば今頃は、などと愚痴を言っても始まらない。家に着いたのは18時10分くらい。服を着替えて配偶者に電話したが、今日は僕を送る時間が無いという。しょうがないのでタクシーで行くことにした。いや、ライブの会場がO島通線という商業道路というかバイパス沿いにあり、街の中心部だったらバスという手もあるが、今からバスに乗っていては間に合わない。

 家を出て、タクシーが良く通るメインの道路に向かおうとしたが、丁度その反対方向に1台のタクシーが通った。急いで追いかけたが当然追いつかず、交通量は多いもののあまりタクシーが通らない道に出てしまった。橋のたもとの大きな交差点で、タクシーを待つが一向に来ない。Y尾君に電話するが彼も出ない。気持ちはあせるが、どうしようもない。僕は決心した。目の前の大きな橋を渡ると、もう一つ大きな交差点がある。そこまで行けばタクシーは捕まるはずだ。走った。走った。久しぶりに全力で走った。もう12月だというのに汗びっしょりになり橋を渡り、次の交差点にやってきた。しかし、タクシーは来ない。雪は降る、あなたは来ないと思わずアダモの古い歌を口ずさんだ(ウソです。そんな余裕は無く目を血走らせて行きかう車を睨んでいました)。ようやく1台のタクシーが停まり、そのときの気持ちを「間に合うかもしれない」というタイトルでアップした。

 ぎょうざの丸岡宮崎店に着いたのは丁度19時。普段はぎょうざの看板が出ているところが、今日はLIVE IN MUZAというカッコイイ電飾看板になっていた。ブログ用に写真を撮ったのだが、整理するときに間違えて削除してしまった。入り口のところでY尾君に会ったが、開演は20時からになったというメールがMUZA(ライブの主催者)から来たという。また会場の入り口にもそのようなことが紙に書いてあった。今から1時間待ちかと、これは決して不満ではなく、その後のライブの楽しさを想像して待つ時間は全然長くない。まずは席の確保だ。受付でチケットを出すとドリンクが1杯付いてくるといわれた。会場に入るとステージは無く、お店の一番奥のところにアップライトのピアノとマイクスタンド、JBLの大きなスピーカーが見えた。ステージ(客席と同じ高さだけど)から見て右側の一番前のテーブルが5人がけで1人しか座ってなかったので、その席を確保した。お店の人が注文を聞きに来たのでビールを頼んだら「ぎょうざもありますけど、10個で500円です」と、嬉しい言葉。しかしライブ見る前にギョーザをバクバク食っていいのだろうか。いいに決まってる、と勝手に結論付けてそれぞれ1皿ずつ注文した。

 ギョーザをパクつきながら缶ビールを飲んでようやく人心地がついた。あたりを見渡す余裕も出来た。ざっと30人くらいは入っているだろうか。まだまだ車も入ってくるからもう少しは増えそうだ。しかし客層は上品で年齢層もやや高い。もっとも去年のライブを見たときのほうが、年齢層は高買ったような気がする。今回は小学生くらいの子供さんを連れた人もいて、40,50代が中心という感じ。普段良くライブを見に行くジャズ喫茶に出入りする客層とはずいぶん違う感じがする。お客観察にも飽きたので物販コーナーをのぞくと、今年発売になったマキさんの詩の朗読のCDがあった。早速購入、売り子さんの「サインしてもらえますよ」の一言が期待させる。マキさんのCDは去年買った2007年ライブとこの詩のCDしかなくて、後は板橋さんのものばかりだった。いったん席に戻り、ビールのお代わりをしてY尾君にもCD買うように勧めた。彼に買わせておけば、後日コピーさせてもらえるという計算だ。

 板橋さんのオーケストラのCDを「これはいいぞ」と勧めたが(だったら自分で買えよな、オッサン)、Y尾君はイマイチの反応だった。他にめぼしいものは無いかなと物色していたら、KOUSUKE MINEという文字が目に入った。ん、峰厚介?と思わず手に取った。僕の顔が不審そうな感じだったせいか、受付の人がピアノで板橋さんが参加しているアルバムだと説明してくれた。Y尾君もネイティブ・サン時代からの峰ファンだったらしく「あ、これがいい」と買い信号が走った。「でも、板橋さんのサインもらえるかな」と僕がナニゲニつぶやいたら、受付の人が「そりゃくれますよ」という一言がプッシュしてY尾君も購入。お買い物も無事終わりまた席に戻った。そうそう、先日パリャーソのライブで楽しませて頂いたH高社長も来られていた。もちろん挨拶する。挨拶は人間関係の基本だ。

 20時近くなり、会場のテーブルは人で埋まった。ざっと5,60人くらいの入りだろうか。なんだか後ろがざわついたので振り返ると、ウルトラQに出てきたガラモンのようなものが歩いてきた。良く見たら板橋さんの頭だった(おいっ、あんまり失礼だろっ!スイマセン、キャインキャインと久しぶりに殿山節が出てしまった)。太田さんの姿も見える。いよいよ始まるな。まずはピアノのところに板橋さんが右側の高いマイクスタンドの位置に太田さんが立った。板橋さんのMCでまずは二人だけの演奏。即興でタイトルは「宮崎の一夜」。力強いがメロディアスな板橋さんのピアノに太田さんの突き刺すようなバイオリンが絡む。ピアノとバイオリンという組み合わせは世界のジャズ界にもあるのだろうか。不勉強な僕は知らないが、独自の音世界を展開してくれた。二人の演奏が終わり、我らが歌姫、カルメン・マキの登場である。

 「熊本から始まって、福岡と大分の境で山の中の廃校だった宝珠山小劇場、そして昨日は大分で今日は宮崎、明日都城でやって今年のツアーは終わり。東京に戻ってあとちょっとライブをやるけど、今年最後のライブみたいなものね」。最初の挨拶のときにこんな話をしてくれた。気のせいか、いつものイメージよりやや能弁な感じがする。いや、良く考えてみると普段のマキさんがどんな感じなのか当然僕は知らないのだが、しょっちゅうブログを拝見してるので勝手にイメージを作り上げていることに気がついて、苦笑した。曲の紹介が始まった。「港町三部作で、まずは『アフリカの月』」。ゲーッ、一番お気に入りの曲が1曲目だよ。去年のライブのときも始まって2曲目で登場して欣喜雀躍したナンバーだ。名曲に名演奏に熱唱、言うことなしだが、僕は食べ物でもそうなのだが、好きなものは取っておく、一番後に食べるほうなのだ。だからいきなり大好きな曲が始まるともうどうしていいか分からなくなる。気がついたら小さな声で一緒に歌っていた。

 1曲目が終わり、「人魚」「かもめ」と続く。気のせいかもしれないが、マキさんの声がやや弱いような感じ。いや、マキさんのボーカル以上にピアノの音が強くて、声がかき消されるようなところが少しある。PAのバランスが悪いのだろうか。それとも九州とはいえ熊本、福岡、大分と寒いところをツアーしたので風邪でもひいたのではと心配したが、余計なお世話でした。エンジンが温まると一気にターボに火が着いたようなパワー全開のボーカルがこのあとみっちり聞けるのだ。この演奏のときだったか、最初から気になっていたマイクスタンドに太田さんの弓が当たった。マイクスタンドが前から来ているので、弓に当たるんじゃないかと気になっていたが、ついに当たってしまった。しかし、流石は天下の太田恵資、今度はわざとマイクに弓を当ててパーカッション代わりにしてしまった。この前からのマイク、どうにも邪魔だったが2部で太田さんがホーミーを聞かせてくれたときにその威力を発揮。いやー、クリアにはっきり音を拾ってくれて、ホーミー独特の音の震えがビンビンに伝わってきた。

 カルメン・マキのパブリックイメージは、やはり「時には母のない子のように」なんだろうか。「私は風」という人も多いだろうが、「時には~」のフレーズは身に沁みる。去年のライブで見たときは、イントロのバイオリンがかもめの鳴き声を表している感じだったが、今年の「時には~」は2008年宮崎バージョンというアナウンスで始まった。途中で「サマータイム」に変わるところを去年初めて聞いたときはジャニス・ジョップリンが降臨してきたかと思うくらい、正直からだが震える思いだった。今回の演奏はそのときに比べるとやや抑え気味かな。まあ、何でも絶叫すれば言いというものでもないが。わりとさらりとやったなという印象が残った。だから多分このときまで僕はマキさんの体調が十分ではないのではと心配していたのだ。しかし、1部ラストの「アジットさん」で、そんな心配は一気に消えた。

 独特のリズムとメロディ、中近東サウンドというか変拍子のリズムをマキさんがクラップハンドで取る。お客さんもオズオズとその手拍子に合わせる。マキさん、スイマセン。宮崎の人はシャイなんです。これは今年見たチャーもそう発言していたから間違いありません。もっとも会場に来ていたお客さんの名誉のために書いておくと、拍手や手拍子はマキさんにリードされて後からついていくという感じだったが、1曲終わるごとの拍手は温かく会場全体を覆ったように思う。このあたりは演奏している人たちはどのように感じられるのだろうか。やはり野太い声で掛け声が飛んだり、効果的な拍手のほうが気持ちがもりあがるのだろうか。おっと「アジットさん」だが、去年初めて見たときはピアノの板橋さんがデンデン太鼓を片手で叩きながら、もう片方で鍵盤を叩き、そこに太田さんのピッキングバイオリンが絡み、延々と、多分10分以上やったと思う。今回はピアノとユニゾンでマキさんのスキャットが入り、おかげでこの曲のメロディの輪郭がすっきりして非常に聞きやすかった。演奏時間は逆に物足りないくらい。以前のマキさんの日記で「アジットさん」にスキャットで絡みたいけど、ちょっと怖いみたいなことが書いてあり、ある時挑戦してみたら上手くいったとも書いてあったが、いや、今回のライブの一つの山場でした。

 1部が終わったのは21時を回った頃だった。会場にざわめきが戻り、みんな口々に今見たライブの素晴らしさを話し合ってるようだった。そうそう、1部が終わる前に、太田さんがハンドマイクを使って「お客様が帰ったりせずにこのまま残ってくれることを期待します」みたいなことを言って笑いを取っていた。このハンドマイクはイコライザー代わりに使っているのか、なかなか効果的な「楽器」である。太田さんの演奏について少し触れておくと、生バイオリンとエレキバイオリンを曲ごとに効果的に使い、しかも普通に弓で弾くのは勿論、弦をベースやギターのようにピッキングしたり、ウクレレのようにコードを弾いたり、バイオリン兼ベース兼リードウクレレとでもいうか、本当に多種多様な使い方をしていた。ああ、説明がめんどくさい。これ読んでくれてる人は年内は無理だけど、来年必ずマキ、板橋&太田組のライブを見ること。百聞は一見にしかずと昔からいうではないか。

 などと、言ってるうちに2部が始まった。この2部は前半重い曲が多くて、ちょっとうつむき加減になってしまった。しかし、そこでもマキさんのジョークで会場は笑いの渦。「私、友達が少ないんです」、普通ミュージシャンがいきなりこんなこと言いますか?会場全体から失笑というか、なんというか、あまり大声で笑っちゃマズイけど、なんとなく分かるよな、という空気が流れる。このあとのマキさんのセリフがふるってる。「怖がられるのかな」。今度は皆さん爆笑でした。うん、マキさん、ちょっと怖いイメージありますよね。もっとも浅川のオネーサンのほうがもっと怖そうですが。

 この2部で一番強烈に残っているのは「ソウル」という曲。韓国の首都ではなく「魂」のほうのソウルだ。ドラマチックで力強い歌だったが、そのまま「虹の彼方へ」と続いていくところは圧倒的でした。「虹~」のイントロが流れてきたら、僕の頭のなかには「テッペン」の詩が流れ出した。去年のライブで買ったCDで何度もなんども聞いたフレーズだ。この「虹の彼方へ」、延々と続きこのまま終わらないのじゃないかと思えるくらいの熱い演奏でした。んんん、だからこれ読んだ人はちゃんとライブ見に行って体験してね。書いていて、いや入力していてもどかしいのだ。ライブ行けなければせめてライブのCD買って聴いてください。

 愛らしいメロディが流れてきた。もうラストナンバーの「バーフライ」だ。いかにもライブのラストにふさわしい、さっきまでの興奮を少しクールダウンするようなテンポの曲。太田さんのマイクパフォーマンスが、いつ入るか期待したが今回は無し。マキさんがステージから下がって、最初と同じように板橋、太田の二人で演奏が続く。曲は、とても綺麗な旋律を持つ「フォー・ユー」。たった今見てきたさまざまなシーンや音、MC、そしてマキさんの一人芝居のようなパフォーマンスが浮かんでは消えていく。ピアノとバイオリンの音が消えてから、はっと我にかえり、今度はアンコールを求めて手を叩いた。会場全体が一体になってアンコールを求めていた。多分、今日カルメン・マキを見に来た人たちは、今までそれほどマキさんの音楽を聴いたことがないのかもしれない。ただ今日見たこの音世界をもう少し聞いていたい、あと少しだけ楽しい時間を下さい、とでもいいたげな拍手が続いた。

 メンバーが戻って来てくれた。アンコールのお礼のMCがあり、マキさんが何か話したが僕は覚えていない。覚えているのは曲名を「にぎわい」と聞いたその瞬間だ。本能的に手を叩き、その瞬間マキさんと視線があって、一瞬微笑んでもらったような気がした。先ほど「怖い」と書いてしまった浅川マキさんの歌で、僕はこの浅川マキの歌をカルメン・マキが歌うのが大好きなのだ。そういえば今日のライブのオープニングは「港町三部作」だったっけ。そしてエンディングも港の歌。一貫しているな、などとぼんやり考えていた。この楽しいライブが終わることが勿体なくてたまらなかった。嬉しい誤算があった。「にぎわい」を歌い終えたマキさんがピアノ越しに板橋さんに話しかけている。板橋さんが頷いたあと、今度は太田さんにひそひそ話しをしている。太田さんも頷いた。アンコールをもう1曲やってくれた。「戦争は知らない」。反戦歌だな。懐かしい単語が思わず口をついて出た。

 本当に最後の曲が終わり、会場のお客さんが帰り始めた。僕はCDにサインしてもらおうと思って待っていた。ちょっとトイレに行って戻ってきたら、Y尾君の姿もないし、テーブルはどんどん片付けられている。このままではイカン。僕はCDを売っていたスタッフに「サイン貰いたいんだけど」と話した。「お名前は?」と聞かれたので「ハンドルネームはdrac-ob」と答えたら、横にいた人から「ブラック・メイビー?」と聞かれた、というのはウソですが、メモに「drac-ob」と書いて渡したらちゃんとマキさんのCDを貰って来てくれた。Y尾君も電話で呼び、無事板橋さんのサインを貰った。

 ええと、本当は日曜日にいろいろなことを思い出しながら書こうと考えていましたが、マキさんから頂いたコメントに感激して一気に書いてしまいました。そのため若干の記憶違いや勘違いがあるかもしれませんが、要するに100回CD聞くより1回ライブ見たほうが、いやCDも大事なんだけど、ええい、面倒だ。まずはライブ行って、良かったらCD買って聴くのだ。つまらなかったら買わなければいいのだ。でもライブに行くと必ず何か発見があります。これだけは間違いありません。

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コメント

板橋さん! おー、あのJAZZの・・・
何年か前に、うちの店に来店。 裏にJAZZの店が有りまして
1ステと2ステの休憩場所で提供してまして。その時は、
井野さん、小山さんおトリオで。 へたに気を使ってJAZZなんか
流さない方がベターだと思い、『ロックンロール・エクスプロージョン』
リトルリチャードのLIVEドキュメンタリーみたいな感じ。
ところが3人さんに受けてしまい、『2ステ行かず、もっとビデオ観たいな』
って状況でした。 ははは・・・・・・

ちなみに、井野・小山氏は、この夏にも来店され、その時は、
クレージー・キャッツの映像で大爆笑され帰られました。 (^^ゞ

でも、板橋さんが、カルメンマキとやるなんて、ビックリでした。

ああ、そのメンツのライブも

今年、行きつけのジャズ喫茶で見ました。板橋さんのピアノも凄かったけど、ショータのドラムがこれまたモーレツなビートでした。マキさんの歌伴としてのピアノと自らのトリオのピアノは当然異なりますが、しかしいつどこで聞いても板橋ピアノというスタイルを構築したのは素晴らしいことですよね。

しかし、ライブの2部が中止になりかけた理由が、休憩時間に見たロックンロールのビデオというのは傑作ですね。今のお店でのエピソードと昔のサーカス時代のエピソード、また何か思い出したらコメントヨロシク。
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Author:drac ob
1975年5月から1981年3月まで、眺め続けた景色から時代と文化が見えてくる。混迷と停滞の時代を撃つ、はずはない。

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