屈折する星屑の上昇と下降、そして火星から来た蜘蛛の群れ(byデビッド・ボウイ)

 「おとうさん、おとうさん!」と、風呂に入ったはずの上の娘が何かただ事ならぬ声で僕を呼んだ。「何」と言葉だけ返して、返事を待ったが「お父さん、お父さん」と、また引きつったような声がする。「なんだ」と今度は半身だけ乗り出し、それでもPCのデスクの前から離れないでいると、「ク、クモ。この前の大きなクモがお風呂にいる」と大絶叫が。実は1週間ほど前だか、配偶者がエアコンの掃除をしていたら、そのエアコンの後ろから10センチくらいの足の長いクモが出て、我が家のオンナコドモは一大事だったらしい。声だけはみんな威勢がいいが、誰一人触れる人間はいないので、殺虫剤をふったり新聞紙を丸めたもので追い出そうとしたらしいが、途中で見失ったらしい。

 その日帰ると、団結したオンナコドモ連が「クモを見つけて殺せ」と非情な指示を出したが、基本的に僕はクモとの共存を望むタイプなので無視し続けた。このクモとの共存の根拠のひとつが10年以上前のNHK「みんなのうた」で岡林信康が「クモは友達」とか、何とかいう歌を歌っていたからである。はっきりと覚えていないが「見掛けだけで嫌われるが本当は僕は臆病者なんだ。だから見かけてもいじめないで」みたいな歌詞で、それを歌っている岡林の声がずいぶん優しそうだったので印象的だった。もっともCDを買おうとまでは思わなかったので、ライト級の心に残る歌だったのだろう。

 もうひとつクモと出来れば平和共存したいのは、ご存知カンダタの話が原因である。「ある日のことでございます」という上品な書き出しで始まる、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を始めて読んだのはいつごろだったのか。読みやすく短い話なので、小学校高学年の時に図書室で読んだような記憶がある。まあ残虐無比、冷酷非情、傲岸無知、その他非人間的な悪党だったカンダタもたった一度クモを助けたことで、地獄から脱出できるチャンスを与えられたのだから、日ごろからクモを助けてやっておけば万一僕が地獄に落ちた時は、タイトロープ(byレオン・ラッセル)のようなクモの糸が天上から落ちてくるはずだ、と子供心に考えたのだろう。しかし、今考えてみると、どうも芥川ブンガクを正しく理解していたとは思えない。

 もちろん、ゴキブリや蚊はすぐに殺す。特にゴキの野郎は見つけ次第、総殲滅を合言葉にしている。そのほかにはハエもそうだけど、最近ハエって見かけないな。これも地球温暖化か、それともラニーニャが原因なんだろうか(あきらかに、この手の話をおちょくってます。余談だが僕はラニーニャと聞くと、脳内変換が「手品ーにゃ」としてしまい、子供のマジシャンを連想してしまう)。それはさておき、絶叫する姉を心配して妹も出てきて「だから父に前言ったでしょう。あの時にちゃんと殺してないからこんなことになるんだが」などと、父親に説教垂れる始末だ。僕がお風呂を覗き込むと、いました。浴槽の中に手足を伸ばした、いや八本の足を伸ばしてお湯の上に浮いてるように見える、体長15,6センチくらいのクモが。

 とりあえずバケツで掬って出そうと思い、傍にあったバケツでお湯を掬うと、いやビックリ。いきなり手足を伸ばして(いや、手足ではないと理性では理解しているのだが、その様を見るとつい手足を伸ばしてばたついてるように見えるんです)動き出して、バケツから出そうになった。「うわ」と、およそイゲンのない声を出してしまい、慌ててバケツのお湯ごとクモを浴槽にぶち込んだ。手で直接触るのは、何となく嫌だったのでとりあえずシャワーのお湯をかけ続けた。そうすると手足を丸めて(分かってる、手足じゃないけど、そういう風に見えるの)、お湯の中に沈んでいく。しばらくお湯をかけ続けていたら、浴槽の底の方に沈んでいったので、ようやく死んだ(この場合は溺死だな)と思い、もう一度バケツで掬おうとしたら、お湯の上のほうに浮かんできたら、また手足を伸ばしてお湯から出ようとした。

 頭にきて、またシャワーのお湯をかけていたら下の娘が「今37度のお湯でしょ。それじゃ死なんから47度にして熱さで殺したらいい」などとカゲキなことを言う。「そんなお湯にしなくてもこのままかけ続けたら溺れて死ぬよ」と答えたが、納得しない。無視して37度のお湯をずっとかけていたら、今度こそ動きが完全に止まった。バケツでは大きすぎるので手洗い桶で掬ったが、流石に今度はピクリとも動かない。桶に半分くらいのお湯(200ccくらいかな。ちなみに成人男性4人の○○は10ccだというのはロックバンド10ccのガセネタらしいが)の中にクモが入っているのだが、さてこれをどうするか。とりあえずベランダから投げようとしたが、下を見ると駐車場は満杯である。そんなところに上からお湯を投げ出したりすると、下の住人からなんといわれるか分かったもんじゃない。

 しょうがないから玄関から出て行って下の草むらにでも捨てようとしたら、あなた。いきなりクモが動き出した。死んだふりしていたのだ。そういえば岡林のクモの歌にも死んだ振りが得意とかいうフレーズがあったような…。しかしその、動き出したクモを見て再度姉妹二人が絶叫し始めた。いわく「だから死んでないっていったのに」「駐車場に捨てればよかったのに」「お父さんはいつも詰めが甘いのよ」「だからお金儲けが下手なのよ」「責任持って殺せよな、ゴルァ!」などとドサクサ紛れにバカ娘どもの本音が聞こえた。こちらも事を穏便に済まそうと思っていたのに、そういう態度に出られると頭にくる、いや本心はたかがクモごときにビビッた自分に頭に来たのだが。

 玄関のドアのところにへばりついた(やはりお湯攻撃は効いていた様でクモとしての体力が弱っていたのだろう)クモを僕はとっさに持っていた桶で叩いた。するとクモも撲殺されるのは嫌だから、必死で逃げようとした。今までの弱っていたのは単なるジェスチャー、演技だったようで、ここでも予想外に早い動きをした。頭に来た僕は、桶でまた叩いたら今度は丸まって伸びたようだ。その丸まったクモの身体に何か白い霧状のものが大量に襲い掛かる。ふと横を見ると下の娘が、必死の形相で殺虫剤を振り掛けている。姉はバスタオルに包まってただひたすら眺めている。「もう大丈夫だろう」というと下の子は「まだまだ」と噴霧する手を緩めない。

 玄関が殺虫剤のにおいで一杯になってようやく下の子は噴霧をやめた。しかし、なんと言う生命力か、クモはまた動き出して逃げようとしている。もっともダメージを強烈に食らってるので動きは鈍い。ここはとどめだと思い、チラシを丸めてそれで握りつぶした。そのチラシを持ってゴミ箱に行こうとすると上の娘も、下の娘も泣き喚いて道を明ける。これは面白い。普段父親をアッシーか貢君程度にしか扱ってないくせに、クモを持ってると泣いてひれ伏す。こいつは便利だ。配偶者が帰ってくるまで、このクモウィズチラシ、いやクモインクルーディングチラシという方がプログレっぽいか。待てよクモはスパイダーだから、ってもういいか。

 とまあ、クモにとってはとんだ災難だったが、我が家にとってもトンだ災難の夜が終わった。そのあと帰って来た配偶者に娘二人がいかにクモが怖かったか、その生命力がしぶとかったか、延々と報告していた。そのときに下の娘が妙なことを言った。「私は殺虫剤を振ったけど手を下したのはお父さんだから、もしクモの呪いがかかった時は『私は罪は軽いです。真犯人は、手を下したのは父です』と言って助かる。おとうはクモの呪いにかかる」…。さんざん人を頼っていながら、最後になったら裏切るのかこいつは。だからオンナコドモは信用できん。
スポンサーサイト

コメント

家の主様(の娘)になんてことを・・・

10cm(もちろん足まで入れた寸法ですよね。胴体が10cmだったらすでにクモンガ)のクモということは、アシダカグモでしょうか。

そんなに長い間かけて虐待するのなら、ひと思いに殺してしまいなさい。かわいそうじゃないですか。
ご存知とは思うけど、クモは見栄えは不気味だけどゴキやガやハエなどの害虫を食べてくれる益虫です(昆虫じゃないけど)。死後の救い以前に現世でお世話になっているんですよ。この子はお風呂にはまって出られなくて困ってたのかもしれません。さっさとすくって駐車場にぶちまけたらよかったんです。クモは軽いから、多少の高さから投げられても助かる確率が高いです。小さいクモなら糸で空を飛べます(そのクモは無理ぽそうだけど)。ゴッサマーってやつです。

それより、玄関にぶちまけた殺虫剤が問題ですね。
みなさん多少なりとも吸ってるんじゃないですか?
殺虫剤工場は有事には簡単に毒ガス工場にすることが出来ます。
怖いですね。
これもエルニーニョのせいでしょうか・・・???

なんてお偉い人間様

直接人間様には害をなさないけれど、目にするのが不愉快だという理由で、いろいろな昆虫が「不快害虫」と名付けられ、それ専用の殺虫剤や書籍まで売られています。「見るだけでうぜーんだよ。消えろよ! 死ねよ!」というわけですね。
アシダカグモは、成虫となったゴキブリを補食する、ほぼ唯一の虫(昆虫じゃないけど)です。
別に彼らは、人間様のお役に立とうと思ってゴキブリをせっせと捕っているわけではないけれど、結果的には非常に有益な存在なのに、なのに「見た目が不愉快」「キモい」というだけの理由で、拷問の末に惨殺されてしまう…。
ああ、あなた方が恩知らずな人間たちを呪ったところで、どうして非難することができましょう!

dracさん、狸さん、こんなんがあります。

UMAでは超有名サイトに投稿された記事です。
「巨大グモ」
http://homepage3.nifty.com/Daiou3/KUMO.html

そのサイトのコメントにありますように、これは特に巨大なクラスのクモではありません。私もたまにですが、掌よりでかいサイズのを見ました。でも、最近見ないなあ。やはり、ラ・ニーニャのせいでしょうか?
さすがにあまりでかいと触る気もおきませんな。
とりあえず、夜のクモはそっとしておいてあげましょう。

蜘蛛

私も苦手ですが絶対負けません。
知ってます?台所用の中性洗剤ぶっ掛けて御覧なさい。
す~っとあの世です。
そう考えるとこわいですね、、、すすいだ瞬間キュきゅっととか言ってる場合じゃなくてきっちり洗い流すことに重点置いたほうが良いかも。

いやはや意外な反応に驚いています

昨日、アリバイ的にサッサと書いたエントリーなんですが、燐さん・狸さん・Dahliaさんと、我がブログの常連コメンテイター(別名、別館4階の綺麗どころ)から、このようなお声をいただき大変嬉しい、楽しい、ありがたやという心境です。

燐さん
やっぱエルニーニョのせいでしょうか。参院選のジミン党敗北、この夏の異常な暑さ、モンゴル人の力士がアジシオを携えて帰国したとか、これらの異変は全てエルニーニョが原因だ。社会保険事務所の不祥事も、沖縄返還の裏工作も全てエルニーニョが原因だー。という風にすると物凄く人生が楽なので、カルトに嵌る人間が多いのでしょうね。「巨大グモ」の話、大変面白かったです。ありがとう。「夜のクモはそっとしておこう」なんてフレーズはちょっと詩的ですね。胸がキュンとしました(オッサン、年なんぼや?)

狸さん
ホント、仰るとおりです。狸さんのコメントは僕がエントリーで書きたかった事を、論点を明確にしてズバリ書いてくれるので大変助かります。そういうこと(外見で判断されるクソッタレ社会の常識批判)書きたかったんです。それと、これ書くと燐さんから怒られそうですが、非喫煙者が喫煙者を追いつめる時の理由付けと対「不快害虫」攻撃の理論は一緒じゃないかとか…。ちなみに拷問はしていません。クモを三角木馬に乗せたり、鞭やローソクでいじめたりしてません。どうせやるなら人間を、それもオネーチャンをって何を書いているのだ。

Dahlia さん
ああ、あの愛嬌のあるジョ○君も、そんな恐ろしい成分で出来てるんですか。それが子供たちの弁当箱のクリーニングを担当しているのは如何なものかと(このあたりちょっとセージ家先生みたいでしょ)。そうですか、洗剤かけるとクモいっちゃいますか、一度試して、ブルル、そんなことしたら極楽に着く直前にクモの糸が切れる、いやお釈迦様に切られてしまう。でも、一回くらいは、物は試しで…。過ちを犯したっていいじゃないか、人間だもん(困った時のみつを頼み)

ご冥福を祈りつつ

黒木 燐 さん、ご紹介のサイト、興味深く読ませていただきました。

中に「噛まれた」という記述がありますが、人間に効く毒性はありませんので、ご安心ください。
「関東付近では珍しくもない」と書いている人もいますけれど、東京ではまず見かけません。千葉県の館山ではよくいましたから、多少温暖な気候が好きなのかもしれません。もっとも、いずれ東京にも出没するようになる可能性もありますね、温暖化ですもんね。

台所用洗剤は粘着力が高く、主成分である界面活性剤は、体内に取り込まれると、肝臓に蓄積されて排出されることがないため、すすぎは流水で20~30秒必要――と、アメリカから来た某ネズミ講的洗剤販売会社・Aの説明会(友達にムリヤリ連れて行かれた…)で言っておりました。

あの、飲んでも安全とかいう洗剤ですか

たしか、アムロアウェイとかいう名では?天下一家の会(これに引っかかってサラ金地獄見た友人後輩一杯いました。僕の下宿にも営業マンが来て一晩説得していきましたが、ものの考え方が天皇制イデオロギーやないか、と批判したら諦めて帰りました)からこちら、まあこの手の話は途絶えませんね。最近は自然に優しい洗剤や、水(まさに水商売)、化粧品、健康食品と枚挙に暇がありません。

まあ、商品が身体に合うからといって買う人はいいんですが、人を勧誘して物を買わせてそのあがりで自分のステータスを上げようという、さもしい根性は嫌いです(こんな事ばかり言ってるからお金に縁がない)。
非公開コメント

プロフィール

drac ob

Author:drac ob
FC2ブログへようこそ!

月別アーカイブ

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

ブロとも申請フォーム

FC2カウンター

FC2カウンター

現在の閲覧者数:

QRコード

QR

鳩時計

フリーエリア

ブログ内検索