という訳で、昨日の話の続き



昨夜、キンクスの『ソープ・オペラ』の写真をアップしたのは意味がある。今日のジェネシスの『幻惑のブロードウェイ』もそうだが、これらのアルバムは大学に入って最初に購入したもの。入学してもディープ・サウス出身なのでクラスに馴染むのも時間がかかった。また英文科というクソの役にも立たない学科だったのでクラスの9割が女子で、それも内部進学の連中が多かったので、こちらも挨拶程度はするものの親しくする相手もいない。

そうそう、一人だけ僕がロシア文学が好きだと知って声をかけてきた女子がいた。やたら親切で今度、チェーホフの『かもめ』の映画があるので見に行こうと誘われた。断る理由も無いので見に行って、帰りに御所の中を散歩しながら色々話をした。別れる前に次にどうしても会ってほしい仲間がいると言い出した。こちらも断る理由がなかったので、曜日と時間を確認し当日行ってみたら代々木のグループだった。リーダー格の2回生がいかにマルクスが正しくて科学的社会主義が素晴らしいかを力説する。さらにうちの大学には暴力集団がいて、その中でも××(自主規制、当時の自治会の活動家の名前だが、多分まだ元気で活躍している筈なので)は、登山ナイフを持ってキャンパスをうろついている。君はそういう学園の環境をどう思うか、おかしいだろ、正義が負ける訳にいかない、共に学園正常化に向けて立ち上がろうとオルグされた。

僕をそこに連れて来た女の子は、こちらをチラチラ見てはいるが会話には入って来ない。その2回生の話し方が気に入らなかったことと、後から合流して来た同学年の(こいつも代々木のその先はちょっとした有名人になるのだが)話も、こちらに対して教え諭すような言い方をしたのと、僕を誘った女の子の彼氏ぽい言動があったので、自分はこれからサークルに入って色々考えたいと断ると学生会館にはロクな奴はいない、特に別館にたむろしている連中はトロツキストといって悪魔の手先だ、そんなところに近づくのは自殺行為だと止められた。そのオルグをどうやって抜け出したのか、今でも覚えているのは読んだばかりの筒井康隆の「旗色不鮮明」の話をして、自分も当面は旗色不鮮明で行くと主張し、相手も流石に諦めた。アホと付き合うとアホがうつると思われたのかもしれない。

で、この時のオルグの体験が数ヶ月後に当時の大学の自治会を握っていたセクトからオルグされた時に生きるのだが主題が違うので止める。

ええと、どこまで話したっけ。そうそう、レコードを買ったというところからか。サークルに入る前は、まあ普通に授業には出ていた。四月は新入生歓迎期間で、生協もいろんなキャンペーンをやっていて、その中にレコードの割引キャンペーンがあった。普段でも確か定価の5パーセント引きで売ってるレコードが、この期間は15あるいは20パーセント引きで売ってるという。ちょうど英文解釈のつまらない授業だったので、ノートに欲しいレコードと金額を書いて計算し、何を買うか考えに考えた、その中の一つが昨日あげたキンクス、そして今日あげたジェネシスである。

自宅にあった家具調ステレオを下宿に持って来たので、部屋でレコードを聴くのに不自由はしなかった。ただ同じ下宿に住んでる連中で音楽に詳しい奴はいなかった。隣の九州人だけの下宿には結構詳しい人が何人かいて、そのうちの一人は同じザキミヤ出身で、何と中学時代、僕の父親から美術を習い、初めて美術の成績が5(五段階評価の)になったと好印象を持ってくれていた先輩だった。ギターが上手くてニール・ヤングの「ダメージ・ダン」やクリムゾンの「ピース」を突然弾き始めたりする人だった。その人からも、自分の部屋にこもって音楽を聴くより、サークルで沢山の人と話をした方が知識も深まるし、第1楽しい。特に同じ音楽が好きな女の子と仲良くなったら、バラ色のキャンパスライフが待っていると言われた。

五月の連休中に色々考え、隣の福岡男の入っている音楽研究会に入ろうと思って学生会館に行ったがカギがかかっていた事は前回書いた。土曜日だったので、待っていても誰か来る保証はない。しばらく考えて、同じ別館の4階に似たような名前のサークルがあるのを思い出した。ああ、あの時に少し待ってみるという忍耐力か、また来週来ようという我慢が出来ていたら私の人生は大きく変わっていたと思う。しかし、忍耐力や我慢などという言葉は我が辞書には無い。ダメな時は行動あるのみ、一点突破全面展開という性格が災いした。僕はそのまま階段を上がり4階の黄色いドアを叩いた。

おー、とかうー、とかいう返事らしきものがあったので、失礼しますと言ってドアを開けた。目の前に、お待たせしました、ゲゲゲの鬼太郎と菅原文太がいた。よく見るとゲゲゲの鬼太郎にクリソツな3回生とミラーのグラサンに角刈りの頭、背広を肩にかけた2回生こちらも3回生のパイセン(サークル関係者にはご存じのS賀さんだが、留年したので間違って最初は2回生と書いたが、れっきとした3回生で鬼太郎会長をサポートする副会長だった)である。このサークルに入りたいと申し出ると鬼太郎は「おい、入会希望らしいがどうする」と文太に聞く。「ま、えーんちゃうか」とめんどくさそうに答える文太。軽く舌打ちした鬼太郎がこのサークルの会則について説明した。

サークル員はロックかジャズかブルースの班に所属する必要があること。各班は毎週一度研究会を開催するので、必ず参加すること。複数の班に掛け持ちは可能だが、メインの班は決めること。どの班にするか決めるまでは当面フリーでも良いが、出来ればひと月内に班を決めること。会員証を提示すれば都レコードで2割引でレコードが買える事など聞いた。

他にも何か決まりがあったと思うが、あまりに愛想が悪いし部室もタバコの吸い殻があちこちに転がっているし、ソファはクッションのカバーが破れ、スポンジが飛び出している。こんなサークルなんか入れるかと思いながらも、とりあえず入会希望で行ったので、会員登録だけはして会員証を手に入れたらゲル二するつもりだった。しかし、運命の女神はそれを許さず、天から千三つの悪魔を寄越したのだ。

疲れたので、今日はここまで。



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